山里に、ひっそりと立つ一本の山桜。
出会いは秋。―葉を落としたその姿は
崖に根を張り、谷の向こうの山を背にして
静かに空へ枝を広げていた。
そのかたちの奥に
満開の春、雨上がりの朝にしか現れない光景を思い描き
その予感に、心を奪われた。
やがて季節は巡り
私は何度もその場所へ足を運ぶ。
まだ固い蕾の頃も
淡くほどけ始める頃も
ただ、その木の呼吸を確かめるように。
そして迎えた春。
春雨後の朝霧が山を包む早朝
桜は静かに、夢の中のように浮かび上がり
やがて差し込む朝の光が
斜光となって花びらを透かす。
その一瞬
ありふれた風景が、かけがえのないものへと変わる。
大きくもなく、名もなく
並木の華やぎにも届かない。
それでもいい。
この山桜には、ただ一つ
飾らないままの美しさがある。
人知れず咲き、人知れず散る・・・
その静かな強さが、ここにある。
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谷に咲く名もない山桜
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F11 1/5秒 ISO-100 +0.7EV
(撮影地:東京都奥多摩町 2014.4.19 5:46)

谷に咲く名もない山桜
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F11 1/30秒 ISO-100 +0.3EV
(撮影地:東京都奥多摩町 2014.4.19 6:50)
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