ホタルの幼虫(ゲンジボタル)が蛹になるために上陸する時期が近づいている。九州南部や四国の高知県などでは、すでに上陸が始まっている地区もあるだろう。
この時期になると、新聞等で取り上げられる話題に「ホタルの幼虫放流」がある。記事の多くに「飼育して大きくなったゲンジホタルの終令幼虫数千匹と餌になるカワニナを、子供たちが放流」とある。ホタル保存会と小学校等で育てたゲンジホタルの幼虫を川へ放すわけだが、いくつもの疑問を感じざるを得ない。
ゲンジボタルは、地域が異なれば遺伝子のタイプが異なり、他地域の個体を放つことは、地域の生態系や遺伝子レベルで種を乱すことになるという考えは広まりつつあり、一部のビオトープや施設等では幼虫とカワニナを業者から購入して放流することが行われてはいるものの、多くの地域では同地域に生息する幼虫の放流が行われている。この点については進歩したと言えるが、「ホタルの幼虫を放流する時期と方法」に関しては、環境保全からかけ離れた「ホタル観賞」に向けた季節行事になっているところも多い。
なぜ、ホタルの幼虫を放流する時期が早春で、終齢幼虫ばかりなのか?
全国各地で行われているホタルの幼虫放流は、そのほとんどが2月下旬から3月上旬にかけて実施されており、そのすべてが、飼育して育てた終齢幼虫の放流である。なぜ、ホタルの幼虫を放流する時期が早春で、終齢幼虫ばかりなのか?理由は明白である。「多くが成虫になって飛んでくれるだろう」という人間本位の思い込みからである。
ホタルの飼育は、1970年代高度経済成長期以降から各地で始まっており、私も1975年からヘイケボタルの飼育を始め、2年後にはゲンジボタルも飼育を開始している。多くが環境汚染や護岸工事によってホタルが激減したことに対する保護・復活運動の一環として、飼育を通じてホタルの生態を学ぶことを目的としており、一部を除いては「放流」は行われていなかった。
しかしながら、人工飼育技術が進んだ1980年代後半から地域住民と学校が連携するケースが増え、2000年代になると、地域の環境保全をテーマにする学校が急増し、ホタル保存会とともに飼育と放流活動が全国的に広まっていく。誰が提唱したのかは分からないが、この頃には「早春に終齢幼虫を放流」することが当たり前として行われており、更には、全国で観光資源としての「ホタルの里」づくりや観賞イベントの急増で「ホタル観賞ブーム」となり、早春の終齢幼虫放流は、季節行事として定着していった。
では、「早春にホタル(ゲンジボタル)の終齢幼虫を放流」することが「人間本位の思い込み」と言えるのか。
放流する川の水とは違った水質で飼育され成長した終齢幼虫は、急激な変化にはとても弱い。いきなり河川に放流されれば、死んでしまう個体も少なくない。生き延びたとしても、屋外とは日長時間の異なった室内で飼育されていたから、上陸時期も判断できずに、その時期になっても水中に留まる個体も多いだろう。あるいは、上陸しても岸辺が蛹になる環境に整っていなければ蛹にもなれないのである。
わずかに羽化した成虫を捕獲して産卵させ、孵化した幼虫を飼育し、また春に放流を行うことを永遠と繰り返すばかりで、いつになってもホタルが定着せずに、ホタル保存会は高齢化で自然消滅し、ホタルも出なくなる。実際に、そのような場所が多い。
ホタルの幼虫を放流する場合の方法
ホタルの幼虫を放流することは、保全の段階として必要な場合もあるから、放流そのものや放流の時期について異を唱えるつもりはない。ただし、ゲンジボタルは、孵化した幼虫がすべて翌年に成虫になることはなく、1~4年かかって成虫になる。つまり、河川には、どの季節においても様々なサイズの幼虫が生息している。このことが、不安定な自然河川において生き抜く生存戦略になっているので、以下の方法で行う必要がある。
- ホタルの生態を理解し、水中環境、上陸場所、成虫の飛翔空間、産卵場所など、ホタル自らが生きていける生息環境をすべて整える。
- 幼虫を飼育する場合は、屋外にて、放流する河川等と同じ水(水質)で飼育する。あるいは、一か月前から徐々に放流する河川の水を加えて慣らす。
- 採卵は複数個体のメスにし、孵化した幼虫の半数は孵化直後に放流し、残りを上記方法で飼育し、季節を変えながら放流する。
- 放流は、3~5年継続して行ったら、その後は行わず、成虫の発生(定着)の度合いを数年間確認する。
以下の掲載写真は、東日本型ゲンジボタルの生息地において、1月と3月に幼虫の様子を撮影したものである。4月10日前後に上陸する場所であるが、終齢幼虫だけが岸辺近くでカワニナを食べており、上陸の20日ほど前でもカワニナを食べている様子を収めたものである。終齢幼虫は、上陸の数か月前から徐々に岸辺に移動し、十分にカワニナを食べ、数日前からはカワニナを食べるのを止め、上陸に備えるのである。
保全も何も行われていない、まったくの自然発生地での、当たり前の光景である。
*以下の掲載写真は、クリックしますと別窓で拡大表示されます。

東日本型ゲンジボタルの生息地
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F20 1/20秒 ISO-1600
(撮影地:千葉県 2012.3.20 8:25)

群生するカワニナ
Canon EOS 7D / TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F9.0 1/125秒 ISO-2000
(撮影地:千葉県 2011.3.19 7:47)

カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F18 1/25秒 ISO-1000 +0.7EV
(撮影地:千葉県 2011.1.09 11:09)

カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/80秒 ISO-1250
(撮影地:千葉県 2011.1.09 10:47)

カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F9.0 1/160秒 ISO-2000
(撮影地:千葉県 2011.3.19 7:49)

カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F9.0 1/125秒 ISO-3200 +0.3EV
(撮影地:千葉県 2011.3.19 7:45)

カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F18 1/40秒 ISO-3200 +0.7EV
(撮影地:千葉県 2011.1.09 11:15)

カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫(水中撮影)
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F20 1/25秒 ISO-3200 +0.7EV
(撮影地:千葉県 2011.3.19 8:19)

ゲンジボタルの幼虫(水中撮影)
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F20 1/20秒 ISO-2500 +0.7EV
(撮影地:千葉県 2011.3.19 8:23)

ゲンジボタルの幼虫(水中撮影)
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F20 1/20秒 ISO-2500 +0.7EV
(撮影地:千葉県 2011.3.19 8:21)

ゲンジボタルの幼虫(水中撮影)
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F20 1/13秒 ISO-3200 +0.7EV
(撮影地:千葉県 2011.3.19 8:37)
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