ホタルの独り言 Part 2

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雪虫(東京)

 まもなく日が沈むであろう時間。自宅の庭で一服していると、何やら白くて小さい綿毛のようなものがふわふわと飛んでいる。良く見ると、あちこちで飛んでいる。雪虫である。北海道や東北地方では、初雪の降る少し前に出現することが多いため、冬の訪れを告げる風物詩になっているが、東京でも雪虫が舞っていた。

 雪虫とは、何とも風情のある名前だが、飛んでいる様子が雪が舞っているように見えることからの通称で、正体は、体から分泌される白い綿のような蝋物質をまとった体長5mmほどのアブラムシの仲間である。北海道や東北地方ではカメムシ目(Order Hemiptera)アブラムシ科(Genus Aphididae)の「トドノネオオワタムシ」Prociphilus oriens Mordvilko が一般的だが、関東では「ケヤキフシアブラムシ」Paracolopha morrisoni (Baker)らしい。
 アブラムシと言えば、春に草木の新芽に群がって吸汁する憎らしい虫だが、本種の生活史は変わっている。春にケヤキの樹皮の隙間で孵化した幼虫は、ケヤキの新芽の葉裏に寄生し吸汁し、虫こぶが形成される。夏になると虫こぶの中から翅のある成虫が脱出し、ササやタケ類の根に移動する。秋になると、再び翅のある成虫が飛び出してケヤキに戻り産卵する。という。秋なってケヤキに戻るときには白い綿のような蝋物質をまとっているので、目につきやすいのだろう。

 雪虫。実は、初めて見た昆虫である。マクロレンズ越しに見つめるその姿は、ただの昆虫という枠を超えて、どこか儚く、人の記憶の奥をそっと刺激してくる。白い綿毛が光を受けて透ける瞬間、季節の変わり目にだけ訪れる静かな気配が、庭の空気全体をやわらかく染めていた。
 こうした感触は、井上靖が自伝的小説『しろばんば』で描いた世界にも重なる。題名の『しろばんば』とは雪虫のことである。幼い日の記憶の中に舞う“しろばんば”は、ただの虫ではなく、過ぎゆく時間や失われていくものへの思いを静かに浮かび上がらせる象徴だった。
 庭で見つけたこの一匹の雪虫もまた、季節の境目にそっと差し出された、小さな物語の欠片のように思えた。

参考:地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林業試験場ホームページ https://www.hro.or.jp/forest/research/fri/index.html

*以下の掲載写真は、クリックしますと別窓で拡大表示されます。3,4枚目はピンボケで、しかも被写体ぶれの写真ですが、雪虫が飛んでいる雰囲気だけ出ていたので掲載しました。

雪虫の写真
雪虫(ケヤキフシアブラムシ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/80秒 ISO 3200 +1EV
(撮影地:東京都国分寺市 2025.12.01 15:47)

雪虫の写真
雪虫(ケヤキフシアブラムシ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/80秒 ISO 3200 +1EV
(撮影地:東京都国分寺市 2025.12.01 15:47)

雪虫の写真
雪虫(ケヤキフシアブラムシ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/20秒 ISO 3200 +1EV
(撮影地:東京都国分寺市 2025.12.01 15:54)

雪虫の写真
雪虫(ケヤキフシアブラムシ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/10秒 ISO 3200 +1EV
(撮影地:東京都国分寺市 2025.12.01 15:55)

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