左:EOS-10D(デジタル) 右:EOS-3(フィルム)ホタルの風景写真撮影における銀塩カメラ(フィルム)の一番の弱点は、背景を美しく撮るのが難しいということである。ホタルが光りながら舞う光景は、その背後にある自然環境を写してこそ意味がある。しかし月が出ていたり、街灯などの明かりが近くにあるような場所では、適正露出が得られるまで露光すると昼間のような写真になってしまうし、谷底の真っ暗な場所では、数十分露光しても写るのはホタルの光跡だけで、背景はほとんど写らないこともある。露光時間が長くなればフィルムの相反則不軌によってカラーバランスが崩れ、色の再現性も悪くなる。リバーサルフィルムならラチチュードの範囲が狭いから、思うように写すことはたいへん困難だ。満足できる写真は、試行錯誤の上、何年もかけてようやく1枚撮影できるかできないかといった具合である。
一方、デジタルカメラでのホタル風景撮影は簡単である。薄暗い時に予め撮影しておいた背景に、短い露光で数十枚撮影したホタルの光跡を合成すればよい。ホワイトバランス、色調等はパソコンで補正すればよいから、見栄えのたいへん良いホタルの風景写真が出来上がる。マナーの悪い鑑賞者の懐中電灯や、通りかかった車のライトなどの悪条件は、コマをカットすればよい。一発勝負の銀塩に比べれば、パソコンでいくらでも作り出すことができるのである。
私はこれまで銀塩カメラしか持っていなかったが、今年ようやく友人から譲り受けてデジタルカメラを手にした。しかし、ホタルの風景写真は、先に述べたようなデジタルカメラの撮影技法で撮影するつもりは全くない。よく、銀塩カメラで3分露光したものと、デジタルカメラで30秒露光したものを6枚合成したものは同じだと言う人がいる。しかし、これは全くの別物だ。なぜならデジタル特有の撮影技法の場合、出来上がったものには、時間の連続性がないからだ。どんなに美しい出来栄えでも、とぎれとぎれの時間を重ね合わせたものは意味がないと思っている。ホタルの風景写真は、ホタルの生態写真でもあるべきと考えているからだ。
デジタルカメラでも、銀塩カメラと同じように撮影すればよい。30秒~2分程度の露光時間で十分結果が得られる。何カットも合成してホタルの数を増やす必要などない。飛んでいるホタルの数が少なければ、写る光跡もわずかだが「美的観点からホタルの光が少ない」そんなことを思うのは、今そこに生きるホタルの生態と生息環境の記録を残す重要性は重んじない創作家である。30秒の生きたドラマを写せばいい。
以下の写真2点は、初めてデジタルカメラで撮影したホタルの舞う風景である。


撮影データ
キャノン EOS-10D/シグマAFUC28-80/3.5-5.6MZマクロⅡ/ISO200/F3.5/30秒露光/合成なし
下は、フィルムで撮影したホタルの風景

撮影データ
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR PRO400 Professional
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東京にそだつホタル>東京ゲンジボタル研究所/古河義仁