ホタルの独り言 Part 2

ホタルをはじめ、チョウやトンボなどの昆虫、自然風景の写真を掲載しています

ホタル写真は何を伝えるのか~フィルムからデジタルへ~

 ホタル写真といえば、一般の方々は前記事で紹介したようなマクロ写真ではなく、成虫が飛翔する光跡を写した風景写真を思い浮かべるだろう。デジタルカメラの時代になってからは、誰でも比較的容易に、美しいホタル写真を撮れるようになった。撮影方法については、プロからアマチュアまで多くの人がインターネット上で解説しているので、ここでは触れない。代わりに、フィルムで撮っていた頃を振り返りながら、今のホタル写真について少し考えてみたい。

 私は約50年前からホタルの生態写真を撮影している。孵化や羽化の瞬間などは、現在もリバーサルフィルムに記録された大切な学術資料として保管している。しかし、フィルムカメラしかなかった時代、成虫が発光しながら飛翔する風景を写真に収めることには、大変苦労した。
 ただ光の軌跡が写ればよいわけではない。ホタルがどのような環境に生息し、どこを、どのように飛ぶのか。その姿を光跡として記録したい。風景写真でありながら生態写真でもあり、同時に、その生息地そのものの記録でもありたいと考えていた。
 撮影方法は大きく二つあった。一つは、まだ明るさの残る時間帯に背景をややアンダー気味に撮影し、フィルムを送らずに同じコマへ後からホタルの光を写し込む、多重露光による方法である。これは、デジタル画像をパソコン上で比較明合成する手法に似ているが、フィルムの場合は現場での一発勝負であり、後から画像を調整することはできない。
 もう一つは数分から数十分という長時間露光である。しかし、もともとフィルムは長時間露光に適していない。相反則不軌の影響によって感度や色再現性が低下し、増感現像を行えばコントラストが強くなるうえ、粒状性も悪化する。こうしたマイナス要因を覚悟しなければならなかった。
 さらに、多重露光でも長時間露光でも、撮影中に懐中電灯や車のライトなどが入れば、その一枚は台無しになる。撮影後も、現像には一週間ほどかかるため、結果を確認して再び現場を訪れた時には、すでにホタルの時期が終わっていることも珍しくなかった。また一年待ち、再び挑戦する。その繰り返しで何年も過ぎてしまう時代だった。
 例えば、ヒメボタルの撮影では、2004年に撮影を始め、納得できる一枚を撮ることができたのは2009年。実に6年の歳月を要した。その夜は、山奥の真っ暗な杉林で一人撮影していた。露光の途中、すぐ近くでツキノワグマが現れたのである。思わず身構えたが、6年目に訪れたこのチャンスを無駄にはできない。そう自分に言い聞かせ、撮影を続けたことを今でも鮮明に覚えている。
 「今夜のこの光景は二度とない」。そんな緊張感を胸に、その夜の湿度や空気の匂い、そして静寂までも封じ込めようと、一枚一枚に集中してシャッターを切る。何年も試行錯誤を重ね、ようやく納得できる写真が撮れるようになった。しかし、その出来栄えは、現在のデジタル写真とは比較にならないほど見劣りする。
 デジタルカメラは、高感度性能の飛躍的な向上によって、背景の風景や星空、樹木の質感まで鮮明に描写できる。微細な光まで克明に捉え、ホタル一匹一匹の光跡も明瞭に記録できる。その場で結果を確認しながら、構図や露出を調整できることもデジタルならではの強みである。

 私自身、現在はデジタルカメラでしか撮影していない。しかし、もしフィルム撮影の経験がなければ、デジタルの利便性に任せ、「とりあえずたくさん撮る」という撮影スタイルになっていたかもしれない。また、写真はすべて撮影後の処理で仕上げるものだという考え方になっていた可能性もある。そう考えると、写真を見る目や撮る姿勢も、今とは違っていただろう。
 フィルム時代には、シャッターを切る前に、頭の中で完成した写真を何度も思い描いた。一晩で撮影できるカット数も使えるフィルムの本数にも限りがあるから、一枚を切る重みは今とは比べものにならなかった。
 2020年、高知県で偶然お会いした写真家、故・小原玲さんと、フィルムによるホタル写真について熱く語り合ったことを懐かしく思い出す。現在活躍しているプロ写真家の中で、フィルムでホタルを撮影した経験を持つ人は、果たしてどれほどいるのだろうか。
 今撮られているホタル写真、特にヒメボタルの写真の多くは、比較明合成によって何十枚、時には何百枚もの画像を重ね合わせ、実際には肉眼で見ることのできないほどの光の乱舞を表現したものが多い。肉眼を超えた「写真ならではの世界」を創り出せることは、デジタル時代だからこそ可能になった表現である。
 その夜のホタルに何を感じ、何を伝え、何を表現したいのか。それは撮影者の自由である。しかし私は、どのような表現であっても、その一枚がホタルという儚い命の輝きを伝えるものであってほしいと思っている。

 以下には、フィルムで撮影したホタル写真7枚と最後にデジタルカメラで撮影したもの3枚を掲載した。フィルムは、ニコンのフィルムスキャナーでスキャンしてデジタル化したものである。デジタルカメラで撮影したものは、比較明合成ではなく、フィルムでの撮影と同じ長時間露光で撮った写真である。すべての写真は、クリックすると別窓で拡大表示される。

フィルムで撮影したホタル写真

ヒメボタルの写真
ヒメボタル(東京都)
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR NATURA 1600

ヒメボタルの写真
ヒメボタル(山梨県)
CANON EOS-3 / EF 50mm F1.4 USM / FUJICOLOR NATURA 1600

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル(東京都)
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome E200 Professional

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル(東京都)
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル(東京都)
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR PRO400 Professional

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル(東京都)
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル(東京都)
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional

デジタルカメラで撮影したホタル写真(比較明合成なしの長時間露光で撮影)

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル(静岡県)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 68秒 ISO 400

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル(新潟県)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F2.5 240秒 ISO 400

ヒメボタルの写真
ヒメボタル(静岡県)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 256秒 ISO 1600

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