ウスバシロチョウ Parnassius citrinarius Motschulsky, 1866 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ウスバアゲハ属(Genus Parnassius)に属するチョウである。ちなみに、前回の記事「ギフチョウ属」もウスバアゲハ亜科である。学名のParnassiusは、ギリシャ神話のアポロが住む山、Panassos(パルナッソス)山からきている。以前、学名は(Parnassius glacialis)が使用されていた(海外では現在も使用されている)が、現在の日本では(Parnassius citrinarius)としている。尚、glacialisは「氷の」という意味である。
ウスバシロチョウは、「ウスバアゲハ」とも呼ばれるが、日本昆虫学会などが目録を整理する際、より広く定着していた「ウスバシロチョウ」を標準和名として採用した経緯があり、こちらの和名の方がなじみがある。アゲハチョウ科にも関わらずシロチョウでは学術的な正確さや分類学上も混乱するが、当ブログの過去の記事においても「ウスバシロチョウ」と記載してきたので「ウスバシロチョウ」と記載した。
ウスバアゲハ属は、世界に約40種ほど知られており、約150万年前の氷河期を生き延びて来たと言われている。そのほとんどが寒地か高山地帯にだけ分布しているが、日本のウスバシロチョウは最も南に分布し、平地にも生息している。また、国内にはウスバアゲハ属が3種生息しており、本種の他の2種(ウスバキチョウ、ヒメウスバシロチョウ)は北海道特産種で、ウスバキチョウは大雪山系固有で国の特別天然記念物に指定されている。
ウスバシロチョウは、ギフチョウ同様に氷河期からの古い形質を持っており、胴体には細かい毛が沢山はえている。また、和名のように白く透けた翅(薄翅)が大きな特徴であり、絹のような羽を小刻みに震わせて風に乗り、ゆらゆらと滑空する様子は、優雅で美しく「天女の舞いのようだ」と表現される。
ウスバシロチョウは、平地から山地の樹林や草地、畑などに生息し、年1回、5~7月頃(寒冷地では7~8月頃)に発生するが、成虫は、食草であるケシ科のムラサキケマンやヤマエンゴサクには産卵せず、近くの木の下枝などに産卵する。そして卵のまま夏、秋、そして冬を越して、翌年の1月下旬~3月上旬頃にようやく孵化する。新芽が展開する前に孵化した幼虫は、食草の芽をかじりながらゆっくりと成長し、終齢になると地表や石の下などで枯葉をくるんで糸で繭を作って蛹になる。このウスバシロチョウ特有の生態も氷河期の遺物であろう。
ウスバシロチョウは、北海道から本州、四国にかけて分布するが、ミトコンドリアDNAの分析では、主に「中国・四国系統」「西日本(近畿・中部)系統」「東日本系統」の3つのグループに分化、中部・近畿地方が東日本や西日本と遺伝的に異なっている。
また、それぞれの地域個体群で遺伝的・環境的に分化し変異が存在する。本種は、飛翔能力が低いために、各地域の個体群が独自の変異を維持・発現しやすい特徴にある。上翅中室の外縁側下方や中央に丸い黒紋が出現するような翅の斑紋の違いがあったり、青森県の一部には、白い鱗粉しかない「白化型」、長野県の一部には白い鱗粉が赤みを帯びる「赤化型」、福島県や新潟県等には白い鱗粉が黄色みを帯びる「黄色型」や白い鱗粉がない「黒化型」が存在している。日本海側や積雪の多い地域に見られる黒化型については、最深積雪量に関連があり、雪が多いほど黒化する傾向が強いと言われている。また、交尾を終えたメスが時間の経過と共に黒化する傾向にあるようである。更には、同一地域内においても前翅の黒紋の大きさや、後翅の縁の黒色帯の幅、翅の透け具合にも個体差があり、ギフチョウ同様に地理的変異や個体変異がたいへん多い種である。これまで各地で出会う毎に撮影してきたので、以下にまとめてみた。
参考文献:松野 宏.ウスバシロチョウの変異について一鳥取市付近に見るその実態.蝶と蛾.1975,VoL26,No.2,p.77-82
*以下のサムネイル写真は、クリックしますと別窓で拡大表示されます。
関東地方のウスバシロチョウ
日本海側のウスバシロチョウ
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