~蔵出し写真⑧~
谷の底 漂う霧に 灯をともす
命のひかり 宵をたゆたう
季節外れの写真であるが、蔵出し写真として今から15年前に撮影したホタルの飛翔風景写真を1枚掲載したい。
撮影したゲンジボタル生息地は、地元の方も来ない山奥の渓流。生態系の特徴としては、カワニナがほとんど生息していないという場所である。このようにカワニナが少ない、或いはまったく生息していない場所でもゲンジボタルが多く発生する所は、全国各地に点在している。幼虫は、カワニナがいなくてもミミズだけを食しても成長することが10年ほど前に判明しているので、現在では、こうした環境も特殊ではなくなった。
ゲンジボタルの観察と写真撮影に訪れた日は良い天気だったが、さすが富士山麓。19時を過ぎた頃から谷は濃霧に包まれた。はたして光ってくれるのか不安が過ったが、19時15分に一番ボタルが発光を始め、次第にその数は増えた。しかし、なかなか飛ばない。霧の影響である。19時40分頃にようやく飛び始め、21時頃まで続いた。幻想的な光景ではあるが、それはあくまで人間の都合のいい解釈に過ぎない。ホタルの方は必至だ。発光するホタルは、相手の光が見えなければコミュニケーションが図れない。つまり、繁殖行動が行えないのである。霧は、お互いの光を見えなくしてしまう。それでも子孫を残すために懸命に発光飛翔する様子を軽々に「幻想的」などという一言で言い表してはいけない。
撮影については、4分間シャッターを開けて露光を続ける、いわゆる長時間露光によって撮影した。現在、撮影の主流となっている薄暗い時間帯に前もって撮影した背景に、同じ場所であとから撮影した光跡だけのカットを何枚も重ねる方法(多重合成/コンポジット)よりもノイズが出やすいが、長時間露光は、ホタルの光跡が途切れることがないため生態学的に意味のある写真になる。また「時間の連続性」は、写真芸術の観点からも求められるものである。光の絨毯になるまで何百枚と重ねたヒメボタルの写真のように時間が連続していないコンポジット写真は、単なる見栄え重視の創作写真であり、ホタルの生態写真でも芸術作品でもない。
決して、コンポジットの創作写真を否定しているわけではない。ホタル写真では、どのような自然環境の下で、ホタルがどのように発光飛翔しているのかを写すことが重要であるが、長時間露光では環境である背景が黒くつぶれてしまったり、まるで昼間のような写真になってしまう生息地も多い。ホタルの飛翔風景写真として見ていただくには、コンポジットも必要であり、価値の有無を理解した上で私も多重露光で撮影している。
カメラの最新機種は、長時間露光でもノイズが少なく、またRAW現像ソフトにおいてもAIノイズ処理機能があるので、来年のホタルの季節には、価値ある写真も残してはいかがであろうか。
*以下の掲載写真は、クリックしますと別窓で拡大表示されます。

ゲンジボタルの飛翔風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F2.5 240秒 ISO 400
(撮影地:静岡県 2010.7.10 20:11)
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